人事部門に必要なセンスとは10(出処進退を自分で決める)

2015年8月4日火曜日


「人事部門に必要なセンス」の第10回目は、人事部門に身を置く者の自らの出処進退について、です。

「出処進退」とは、本来官職に使われる言葉ですが、「辞める辞めないの態度」「身のふり方や身の処し方」のことを言いますね。

自分の人事部長時代を振り返って、出処進退に関して二つの思うところを書きたいと思います。

ひとつは、バブル崩壊後のリストラに関しての出処進退について。もうひとつは、人事部門に在籍する長さのことについてです。

【リストラ後の出処進退】

バブル崩壊後の業績悪化で、会社立て直しのために大きなリストラを断行しました。

リストラの柱は、資産の圧縮と不採算事業の撤退、人員削減等でしたが、全社員を知る立場として、人員削減の実行隊長となりました。

社員数を半減させるという大きなものでした。

一連の計画が完了した時点で、私は当時の社長に退職を申し出ました。

私の心を最も大きく痛めつけたことは、直近で自らが責任者として採用した300余人の新入社員の半数を自らの手で外に出さなければならなかったことでした。

到底人事部長の職を続けることなどできないと思いました。

社長の答えは、「気持ちは分かる。しかし社長の自分は経営責任を取って辞任することになる。社長と人事部長が一度に辞めてしまっては影響が大き過ぎる。踏み止まって、立て直しの道筋がついてから辞めてくれ」というものでした。

そこから新社長の元で、人事部長として「立て直し」のための取り組みが始まりました。

大リストラの後に気持ちの整理もつかないうちに、前向きな仕事をエネルギッシュに進めることは非常に困難なことです。

辛い仕事が次々とやって来ました。

会社の状況が落ち着いてくると、 新入社員の半数に外に出てもらった余韻も冷めやらぬ中で、新卒採用再開の議論が始まり、侃々諤々の議論になりました。

喉元過ぎればなんとやらです。

議論の末、新卒採用再開以前に、グループ会社に出向・転籍してもらった社員を呼び戻そうという結論になりました。

当人たちや私の意思とは無関係に「出された連中は戻ってきたいはずだし、会社にとっても助かることだ」という何とも勝手な都合での経営決定を受けて、私が関連各社を回り社長と折衝し、出向者とも面談する羽目になりました。

中には、「お前は何を考えてるんだ。当事者の人生をどう思っているんだ。こっちに来てもらった人達はすでにオレのかわいい社員なんだ。ふざけたことをするな」と私に罵声を浴びせる社長さんもいらっしゃいました。

すでに脱け殻のようになっていた私は、こうした一連の展開に、すっかりくたびれてしまいました。

新社長に「そろそろお暇をいただきたい」と申し出ますが、「是非とも自分を支えてほしい」という情熱溢れる引き止めに、またまた思い止まってしまいます。

自分なりに後悔しないように消化していたつもりですが、リストラ完了後に社長と共に身を引くところで思い止まることなく、意思を通すべきだったと思います。

長い目で考えた時に、残された社員にとって、会社にとって、自分にとって一番いい道は何かということを、状況に流されずに判断しなければなりません。

引き際を見極めることが、とても重要です。

【人事部門に在籍する長さのこと】

私が人事部に在籍したのは、9年半でありました。

丸10年を目前にしての退職(独立起業)です。

自分の実感としては、ギリギリのところでの退職でした。

上に書いたように、リストラの実行隊長の任の後、社長の「会社の建て直しを見届けてから」という言葉で退職を思い止まりましたが、リストラを経験したこと以外にも精神的限界が来ていました。

暴論というそしりを覚悟の上で、「人事部門在籍10年限界説」を唱えたいと思います。

「自分の実感として」という以外に説得力のある根拠を示すことはできませんし、10年20年と人事部門を担当して素晴らしい仕事をされている方も多いことだろうと思いますので、そういう方を人間として否定するつもりはまったくないのでありますが。

退職を思い止まって少ししてから、私は新社長に「現場の責任者への異動願い」を提出しました。

結果はけんもほろろの却下でしたが、その後も半年ごとに申告し続けました。

そのたび社長の答えは「君の今のポストは余人をもって代えがたし」という答えでした。

1.人のことを扱う仕事が長いことの弊害

組織内のどの仕事にもそれなりの難しさが当然あるわけですが、人事の仕事の難しさがどこにあるかと言いますと、血の通った人間として尊重すべきことを分かっていてもそれを忘れないと回せないことが山ほどありますので、それにどう耐えるか、というところにあるわけなんです。

規模が大きくなってくると、一人ひとりに血の通ったサービスをしたいという思いを持っていたとしてもいつか限界が来ますよね。

1,000人くらいまでは顔と名前が一致して一人ひとりを思い浮かべて人事異動をしたり、評価処遇を取り仕切ったりできますが、それを越えると次第に仕組みで回すようになってきます。

その仕組み自体に血を通わせようという取り組みを止めてはいけないのですが、抜本的に何かを変えない限り、やりきれないジレンマを抱えながら仕事をしていくことになります。

人事異動などは、一人ひとりの将来性、成長を意識していたものが、部門ごとの人数合わせをしなくてはいけなくなってきます。

仕事の中には、一人ひとりの社員には不利益になると分かっていても、非情になってやらなくてはならない仕事もあります。

これらのバランスを取っているうちに、知らず知らずのうちに感性が蝕まれていきます。

顔が見えていない、血が通っていないと分かっていてもやり続けていくジレンマをジレンマと感じているうちはいいのですが、時間と共にそれが当たり前になっていくのです。

「人事部門に必要なセンスとは8(裁判官からenergizerへ)」で書いたように、人事部門にいると人を裁く裁判官になってしまう傾向がありますが、人を人として見ない、血が通っていない裁判官が人事を取り仕切っている会社というのは背筋が寒くなりますよね。

2.オペレーション業務が長いことの弊害

人事部門のWHY(本来の目的)は、社員と組織のエネルギーを上げて、事業戦略の実行力を上げ、企業の業績向上に貢献することであると、私は思っています。

人事部門の一切の仕事がそのことを意識して行われる必要がありますね。

一見オペレーション業務と思われる仕事であっても、やり方次第で社員のエネルギーを上げることにも下げることにもつながります。

例えば給与処理の仕事ひとつでも、ただ給与計算をして給与明細書を配るだけの処理業務として回していく人もいれば、給与の構成の中身に常に問題意識を持って給与制度の改善を思い付いて提案したり、給与明細に一工夫をこらして、それを受け取った社員の心を動かしたりできる人もいます。

本来の目的を見失って「回していけばよい」と割りきってしまうと、ほとんどの仕事がオペレーション業務と化してしまいます。

本来の目的を忘れず、自分の仕事の影響(結果)を意識して取り組み続けるとそれは「戦略業務」となります。

これは人事部長や人事課長のマネジメント力が大きく左右する問題ですが、それが低いと、ひどい場合は人事部門全体がオペレーション部門(決まった仕事を年中行事で回すだけの部門)になってしまいます。

長い期間オペレーション業務に浸ってしまうと、体も頭脳も繰り返し業務に順応してしまうことになりますが、この状態が10年20年と続くとよほど大胆に環境を変えない限り、戦略的な仕事ぶりに改革していくことは難しくなります。

私が現場部門への異動願いを社長に出し続けた際の言葉を思い出します。

「余人を持って代えがたし」

この言葉は、少々激しい言い方になりますが、一歩間違うと社員を飼い殺しにする悪魔の言葉であると私は思います。

会社内に「余人を持って代えがたし」などという仕事はほとんどありません。

その人が異動したり退職したりして、波風立つことで自分が困るからそう言っているだけのことがほとんどだと知るべきです。

3.自己変革エネルギーの限界

人一倍のエネルギーを持っていることは自信を持っていましたが、それだからこそ、実はエネルギーのやり場に困っていました。

なかなか業績が上がらず変革が必要な事業部がありました。

そこを自分に任せてほしい、と社長に懇願し続けていたのです。

自分のエネルギーと新しい発想で、部門を180度変え、稼ぎ頭の部門に変えて見せる、という野望を持っていました。

そうした前向きな気持ちが6割で、残りの4割は自己変革エネルギーの限界を感じていたのも事実でした。

理想を高く持ち、習慣を変えることで自分を磨くことに取り組んで来たつもりですし、高い理想で人事部門を率いて来たつもりですが、自己変革エネルギーだけで自分を変革していくことには限界も感じていました。

環境を変えたい。まったく違う攻めの仕事に身を置いて自分をまったく違う次元で鍛えて自分の違う可能性を見出だしたいという気持ちも断ちがたいものがありました。

さて、長々と書いて来ましたが、私が何が言いたいかと言いますと、人事部門にいる人間は(どこの部門にいても言えるのですが、人事部門は特に)自分自身の「人事」は自分自身で問題意識を持って、強い意思で臨まなくてはならないということです。

流れに身を任せることなく、時々覚醒の機会を持たなくてはなりません。

覚醒の機会というのは、自分自身に問いかけてみる自省の機会です。

・人としての感性を失っていないか。
・血の通った人事業務ができているか。
・人事部門のWHYを忘れていないか。
・オペレーション業務に甘んじて繰り返しになっていないか。

こうした自省の結果、自分自身の環境を変える必要性を感じた場合には、意思を強く持って自分自身の異動を計画し実行すべきだと思います。

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今野 誠一Seiichi Imano
企業経営にあたりつつ、自らも第一線のコンサルタントとして、組織変革コンサルティング、経営幹部教育プログラムや管理職研修のファシリテーション、企業理念構築や経営ビジョン構築ワークショップのファシリテーションなどを担当している。