人事部門に必要なセンスとは7(異質のエネルギー)

2015年6月24日水曜日


企業内の「6つのエネルギー」という考え方があります。

企業内、ないしは部門などの組織内のエネルギーを上げていくために、個人で3つ(貢献、成長、実現)、組織で3つ(目的、異質、場)のエネルギーに着目して施策を打っていくというものです。

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私が人事部長をしていた当時を振り返ってみます。

この6つのエネルギーという考え方は当時ありませんでしたが、全体として実にエネルギーに溢れる会社でした。

異質のエネルギー以外の5つは結果として高い会社だったと思います。

一々書きませんが、貢献、成長、実現、目的、場の5つのエネルギーは、様々な要因によって高い状態に保たれていました。

当時、私の所属していた企業グループは、人と組織をいい状態にしておくために、知恵と予算と人材を振り向けることに関しては、日本でもトップクラスだったと思います。

組織構造の考え方、コミュニケーション施策、人材教育施策、組織風土醸成施策等々、様々な考え方や施策が存在していましたが、それらの施策の意味するところは、マングローブが提唱し実践している「6つのエネルギー」でほぼ説明することができます。

それについては、また場をあらためて触れたいと思います。

さて、上に「異質のエネルギー以外の5つは高かった」と書きました。

今回のこのシリーズ(人事部門に必要なセンスとは?)は、私が人事部長をもう一度やるとしたらもっとうまくやれるのに、という気持ちの表明として始まったものですが、今回のテーマは「異質のエネルギー」です。

もう一度やれるとしたら、異質のエネルギーを上げることにきちんと取り組んでみたいと思うのです。

まずもって「異質のエネルギー」とは何か?ですが、上の図のひと言説明には「異質なものの存在や、異質なものとの接点によるエネルギー」とあります。

要は、色々なタイプの人材の組み合わせによって起こる化学反応ということですね。

化学反応というのは、1+1が2ではなく、3や4になるということですね。

さて、異質のエネルギーは、「異質人材の存在」+「違いの尊敬」+「外との接点」によって成り立っています。

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1.異質人材の存在

これは、言うまでもなく、色々なタイプの人が、社内に存在することですね。
当時ダイバーシティという言葉は言われていませんでしたが、その重要性は認識していました。

ダイバーシティとは、「多様性」と訳されますね。

国籍、性別が、最も分かりやすいポイントとして語られていますが、それだけではなく、 生活スタイル、宗教、価値観なども多様である事を指しているものですね。

現在は特に「女性」の存在、とりわけ「女性管理職」「女性幹部」を増やそうということが、社会全体のテーマとなっています。

私がいた会社は、性別については先進的で、私が入社した40年前の時点ですでに、男女の扱いは同じでした。
仕事内容、待遇、評価、昇進機会等々、当事者における日常レベルでは色々あったのでしょうが、社内ではよく、「トイレ以外の区別はない」などという言い方がされるくらいでした。

最後にいた会社は、圧倒的に男性社会の業界の中にいて、営業マンや仕入れ担当に積極的に女性を起用した、その点において先進企業でした。

一方で、当時私が感じていて解決できなかったことは、採用時の「求める人物像」がよく言えば統一感があり、悪く言えば偏りがあり、同じようなタイプの人が集っていたことですね。

現在はもちろん、私がやっていた時よりも戦略的に考えられているはずですが、当時の基準は採用に関わる人が「自分自身が一緒に働きたいと思う人」というものでした。

これは代々続けていくと、「好感度」が受け継がれていくという点で実によい基準なのですが、弱点としては、大いに同質な人を集める基準でもあるわけです。

「自分より優秀だと思う人を採用する」という基準も存在したことがありますが、新卒採用中心の採用戦略においては、なかなかに難しい基準ではありました。

この当時自分に欠けていた発想は、「中長期の事業戦略を実現するために必要な人材」という観点ですね。

その観点で導き出された必要な人材に社内にいてもらい、育てていかなくてはなりません。

どんな仕事にも向いているという人は少ないですし、どんな環境、状況でも必要な人材が変わらないということはありません。

中長期をにらんだ時には、もう少し違ったタイプの人材も必要だったのではないかと感じています。

時々、新卒採用でも、特に中途採用において、全く今までにないタイプの人を採用することがありましたが、うまく溶け込むことができた人もいれば、なじめず辞めていった人もいました。

私の頭に浮かんでいたのは「ピアプレッシャー」という言葉でした。

ピア(peer )は、英語で「仲間」「同僚」の意。

ピアプレッシャーとは、自らが所属する集団のメンバーや職場の同僚など、同じ立場の仲間からの監視によって生じる心理的圧迫感のことです。

お互いに監視しあう水平管理の強い組織では、周囲との和や全体の利益を重んじ、誰もが集団で認められた規律や価値観、行動様式に従わなければならないとする同化圧力が働くことがよくあります。

これを「ピアプレッシャー」と呼びます。

同質の人が集まって、一旦いい雰囲気ができて、自分達の風土に自信を持ちすぎると、ピアプレッシャーがきつくなりがちなのです。

後から入って来る人に、無意識に染まっていくことを要求するようになっていきます。

もう一度やり直せるとしたら、異質の人が集まることの意義を社員の皆さんに、特にリーダーに理解してもらい、受け入れの下地を作った上で、中長期の戦略に合わせた多様な人材の配置を行いたいと思います。

2.違いの尊敬

仮に異質の人材の配置が難しく、同質の人材が集まってしまっているという現状があったとしても、お互いの違いに積極的に目を向け、違いを尊敬し合うことで、異質のエネルギーを引き出すことができます。

異質とか同質などと言いますが、人間は元々が一人ひとり個性があり、違う存在のはずです。

一人として同じ人間というは存在しないのです。

ビジネスマンとしての、強み・弱みが違います。

これまで経験してきた仕事のキャリアが違います。

一つのものごとに関する考え方も違うはずです。

イー・ウーマンの佐々木かをり社長が、「視点のダイバシティ」という考え方を提唱していました。

視点のダイバシティというのは、物事をどう見るか、どのような分析・評価をするか、ということです。

佐々木かをりさんは、性別でも年齢でもなく、「視点のダイバーシティ」こそが重要であると指摘します。

違ったものの見方ができる人が集まる組織が、健全であり、強いというわけです。

集団には、もともと同調圧力というものが存在します。

同調圧力とは、簡単に言う「人と同じでなくてはいけないというプレッシャー」のことを言います。

自然に任せておくのではなく、これを打破していく仕組みが必要なのです。

例えば会議などで、自由に意見を言えと言われても、地位やキャリア、年齢などが壁となって、ついつい上の人と同じ意見を言ってしまったり、本当は反対意見を持っていても賛成して済ませてしまったりすることが多くなります。

これを打破するために、10分でもシンキングタイムを設けて、全員が自分の素直な意見を付箋などの紙に書き、シンキングタイム終了後に、一斉に貼り出してから順番に陳述していく。そうすることで、キャリアの浅い若手の人の視点を素直に出してもらうというようなことも、小さなことですが、大切になってくるわけです。

ある会社では、半年に一度人事評価の時期に合わせて、チームメンバーが集まって、お互いの「自分との違いで尊敬できること」を伝え合って、成果を上げています。

半年間の自分以外のメンバーの仕事ぶりを見ていて感じた、自分との違い(能力や仕事ぶり、物事への視点など)で尊敬できるところを付箋などに書き出します。

順番を決めて、一人の人に対して皆から、この「自分との違いで尊敬できるところ」を伝えていきます。

全員からそれを受け取ったら、本人がそのことに対して感想を表明して、次の人に移っていきます。

たった、これだけのことなのですが、これを数年間続けていくと、日頃からお互いの仕事ぶりをよく見合うようになり、また「違いに注目」し、「尊敬しあう」という風土が少しずつできていくのです。

これらはほんの一例ですが、もしもう一度人事部長をやるとしたら、組織の中で、この「視点のダイバーシティ」、違ったものの見方を尊重する仕組みを積極的に創り上げていく工夫を全社的に展開したいと思います。

3.外との接点

異質のエネルギーの最後は、外との接点を積極的に持つということです。

今は、恵まれたことに、日本の人事部さんやHRプロさんのような会社が登場し、人事の専門家のネットワークなどに容易にアクセスできるようになりました。

私が人事をしていた頃は、自力で地道にネットワークを作っていく以外に方法がありませんでした。

やっかいなことに、会社の人事に関することは秘密情報が多いというイメージのためか、多くの人事部門はどちらかというと自社に籠もり、オープンさに欠ける傾向があり、これを打破していくためには相当のエネルギーが必要だと思いました。

人事制度の大改革をするということになった時のことです。

社長から「同業他社の人事制度を調べよ」という指令が下りました。

これは調べた上で、それと違うことをやれ、ということではなく、いいところを盗めという意味だったのです。

今でこそ、人や組織にも戦略が重要であると考えられるようになりましたし、「勝てる戦略の基本の3つの条件」を即座に念頭において考えられるようになりましたが、その頃はいかにも不勉強でした。

ちなみに「勝てる戦略の基本の3つの条件」とは・・・・

①他と違うことをやる

②うまくいっていることを見つけ、それを増やす

③うまくいかなければ、違うことをやる

です。

他と違うことをやらないと勝てないというのに、当時は同業他社を調べ上げて、それらのよいところを集めることをしながら考えるという愚を犯していました。

調べるのであれば、むしろ異業種に学んで、業界のどこも考えていないような本質に迫るまったく新しい視点で考えるべきだと今であれば思えるのです。

古い業界ということもあったのだと思いますが、現場の人たちはもっと業界の中で物を考えるという体質が強かったように思います。

ネットワークと言えば業界内のお付き合いが多くを占め、異業種のネットワークを豊富に持って、新しい視点をビジネスに持ち込むというような幹部も少ないのが現状でした。

一人ひとりは明るく外交的な人が多いというのに、ビジネス上の活動においては、業界内に限定された内向的な人に変身してしまうのです。

せめて経営幹部から、管理職までのところは、意図的にでも外との接点を持つことを奨励し、評価していく仕組みも考えられればよかったと思っています。

長くなってしまいましたが、もしもう一度やるとしたら、組織内の6つのエネルギーのうちの「異質のエネルギー」を全社的に高める取り組みを徹底的にやってみたい、というのが今回の結論です。


今野 誠一Seiichi Imano
企業経営にあたりつつ、自らも第一線のコンサルタントとして、組織変革コンサルティング、経営幹部教育プログラムや管理職研修のファシリテーション、企業理念構築や経営ビジョン構築ワークショップのファシリテーションなどを担当している。