人事部門に必要なセンスとは6(人との向き合い方)

2015年6月16日火曜日


遂にこのシリーズも「6」となりました。

今回は、人事部長だった当時の「人との向き合い方」について考えてみたいと思います。

あまりにも広いテーマですので、あくまでもこのテーマで思い出す3つのことで、「もしもう一度やるとしたら」を考えます。

ひとつ目は、役員さん方に関することですね。

これもまた、今だから言えることなのですが。

【 役員さん方の教育を考える時 】

当事、組織変革の一環として、社員向けの教育プログラムを考えながら、取締役には、外に他流試合に行っていただくことを企画していました。

人事部長である自分が受講して来て、経営陣にふさわしい公開型の研修を選んで、皆さんに順番に行っていただこうというわけです。

内容の話を書いていると長くなるのでやめますが、決定的に不足していたことが、2つありました。

ひとつは、取締役への「期待感」と「現実」について、社長とじっくり話し合うことをしていなかったということです。

取締役の教育や評価の問題は、聖域で、良く言えば社長の専権事項で、悪く言えば密室での所謂鉛筆なめなめの世界でした。

そういう状況に踏み込まないままに、外の研修にただ参加していても、行かないよりはましかも知れませんが、本質としてふさわしいものだったかどうかは、何とも言えません。

もう一度やるとしたら、社員よりさらにシビアな、確固たる評価軸を持って処遇され、求めるものを明確にして一段レベル高い「経営者として」の教育を施すということを、考えると思います。

【 ある人事部員の涙 】

もう一つ反省があります。

今でこそ、「GOOD&MORE」というキーワードで、人を「よいところや強み」と「さらにここを強化するともっとよくなる」というところをバランスよく見ることを提唱している私ですが、当時の私はその逆のBAD&NO(ダメなところに注目する駄目だしのメガネ)で見る体質がありました。

人事部のマネジャー会議でも、時には一般部員も入る組織人事の戦略会議等でも、よせばいいのに熱血人事部長を気取って、役員さんへの問題意識について熱弁を奮っていたのです。A役員さんはもっと考え方をこう変えるべきだ、だの、B役員さんは、事業へのビジョンが無いだの、と。

よく言えば問題意識ですが、ようは部下に役員さん方の悪口を言っているわけです。

なんて不遜なやつなんでしょうか。

ある日、ある女性人事部員が、折り入って私に話があるというので、会議室で対面しました。

彼女は涙ながらにこう言ったのです。

「今野さんと話していると、会社に夢と希望を持てなくなります。いつも役員さんの悪口ばっかりで」

「今野さんの話しを聞いていると、周りの人はみんな馬鹿で、自分だけが優秀だと言っているように聞こえます」

これは、上に書いたように、自分では熱血人事部長と信じ、改革に情熱を燃やして、同志である部員たちに共感してもらえると思い込んでいた私にとっては、非常にショックな言葉でした。

私の話しを聞いていると、何とかして会社をよくしようというよりも、会社自体もひどいものに思えてきてしまうというのです。

最も胸に堪えたのは彼女の涙でした。

こんな言いにくいことを、勇気を振り絞って思い切って言ってくれたに違いありません。

胸が締め付けられる思いでした。

一週間ほどショックから立ち直れなかったことを覚えています。

その事件は私の人への向き合い方に大きな影響を与えました。

リーダーの言動というものの影響力の大きさを自覚し、出直すのに充分な出来事でした。

【 「いい人ぶらないで」と泣いた彼女 】

人事部長をしていた会社は、急成長して株式を公開するまでに至った後に、バブルの崩壊の際に見事に倒産寸前の縮小局面へと墜落しました。

人事部長に就任し、採用から配置、教育処遇まで、一手に仕切っていて、「闘う人事部長」などと自称して、社員のための人事をしようと意気揚々と仕事をしていました。

バブルの崩壊後の縮小局面では、一転社員を半減させるリストラの陣頭指揮を執る羽目になります。

関連子会社に出向転籍になったある女子社員とフォローの面談をしていた時のことです。

まったく希望しない形で、縁もゆかりもなく、まったく興味も関心もない会社に行かなくてはならない彼女の気持ちを和らげ、今後も力になりたい一心で私は、「困ったら何でも言って来て」とか「君の気持ちはよく分かる」とか、必死に話しをしていました。

しばらくすると彼女の血相が変わり、突然泣き出して、お店(レストランで話しをしていました)の他のお客様がびっくりするほどの大きな声で次のように言ったのです。

「いい人ぶらないで!!」

一瞬、何が起こったのか目が点になり、私は戸惑いました。

どんなに私が、社員の味方のつもりでいい格好しようと、熱くフォローしようと、この局面では、彼女から見れば経営を悪化させ自分達を追い出す会社側の人間でしかないのです。

そして、これからまったく新しい世界に飛び込んで行かなくてはならない彼女からすれば、下手にベタベタしたフォローをされても、邪魔になりこそすれ何の助けにもならないわけです。

むしろ突き放してもらったほうが、長い目で見ていいのかもしれない。

これはだいぶ後になって分かったことです。

そのようないくつかの気持ちが相まって「いい人ぶらないで!!」という言葉となって彼女の口から放たれたのだろうと思います。

これは、社員のために「闘う人事部長」なんて言っていた青臭い自分が、一皮向ける大きなきっかけになる出来事でした。

人事部長が「社員のため」なんて一方向の思いだけで仕事ができるはずがありません。

彼女が言い放ったように、正に私は「いい人ぶっていた」のだと思います。

ある時は、会社の事情を理解し、嫌われ役をしなくてはいけないこともある。

目先の思いやりもどきの発言や行動ではなく、長い目で見たときの社員の幸せを深慮した時に、あえて非情にならなくてはならない時もある。

ひょっとしたら、人事部長は社内で一番大人でいなくてはならないのかもしれないと、その当時実感しました。

【管理職に必要な部下への「愛」とは 】

人事部長当時、全ての仕事に全力投球していましたが、最も力を入れていたのは、社員一人ひとりをよく知る、ということでした。

これは深く考えた上でのことではなかったのですが、総務部から人事部に移った時に、「人事」というくらいだから、人のことをよく知らないと務まらないんだろうなあ、という単純な動機で3ヶ月で1600人の社員を覚えることにしました。

フルネームと所属部署は当然のこと、出身地、出身大学と学部学科、社内の異動暦を、単語帳の裏表に書いて、徹底的に覚えました。

通勤の往復の電車といい、食事中といい、3ヶ月が終わる納期ギリギリの頃にはトイレの中でも覚えることに集中しました。

その上、一人ひとりの上司が書いた評価シートの2年分と、階層別研修のサーベイの結果とトレーナーの所見コメント等を穴が空くほど読み込みました。

1年後には、全員の評価の点数も頭に入っている状態になっていました。

さて、話はこのことではありません。

それくらいのことは、人事部長という仕事をしていくのに当然のことだと思うので大したことではないのです。

このことで私が気がついたのは、上司の部下への愛情の薄さということでした。

半年に一度というのが評価のタームでしたので、2年分の評価シートというと一人当たり4枚になります。

4枚の評価シートを繰り返し繰り返し読んでいると、不思議と、上司のその部下への思いというものが透けて見えてくるのです。

最もひどい管理職は、前回の評価シートの内容をコピペしていました。

人事部はどうせろくに見ていないだろうと、甘く見てなめているのです。

私は、そういう評価シートは突き返しをしていきましたが、労力からいって限りがあります。

もう一度やれるとしたら、そのためのスペシャルチームを作ってでも、徹底的に書き直しをさせようと思います。

コピペほどひどくはなくても、型どおりの言葉で、何の具体性もない文章が並んだ評価シートには、部下への愛情のかけらも感じられません。

自分の仕事以外の(本当はこれ自体が重要な仕事なのですが)面倒なことはしたくない、という気持ちが伝わってきます。

上司に愛されない部下というものは、実に不幸なものです。

上司が部下に愛情を持って接するというのはどういうことかと考えます。

私は「部下の持っているいつか花開くのを待っている才能と可能性を信じること」そして「仕事ぶりをよく見ること」「成長実感を味わう支援をして共に喜ぶこと」ではないかと思うのです。

日頃のマネジメントでそれはやっていくべきことではあるのですが、人事制度や評価シートというものは、本来そのための重要な道具であって、それに手を抜く上司は、部下への愛情がないと判断されてもしょうがないと思うのです。

もう一度やり直せるとしたら、「上司に最も必要なものは、部下への愛情である」ということを、あの手この手で訴えたいと思います。

そして、「部下の持っている、いつか花開くのを待っている才能と可能性を信じること」「仕事ぶりをよく見ること」「成長実感を味わう支援をして共に喜ぶこと」を、全ての管理職が手抜きせず、本気で取り組む会社にするための動きを、徹底しようと思います。

今、コンサルタントとして、そのことに取り組んでいるのです。

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今野 誠一Seiichi Imano
企業経営にあたりつつ、自らも第一線のコンサルタントとして、組織変革コンサルティング、経営幹部教育プログラムや管理職研修のファシリテーション、企業理念構築や経営ビジョン構築ワークショップのファシリテーションなどを担当している。