人事部門に必要なセンスとは3(事業戦略を理解する)

2015年5月19日火曜日


私が某社の人事部長をしている時代の振り返りをもとに「人事部に必要なセンスとは?」を考えるシリーズが続いています。

第一回は「 組織戦略という発想を持つ」、第二回は「AND思考で解決する」でした。

第三回の今回は「事業戦略を理解する」です。

3.事業戦略を理解する

第一回で取り上げた「組織戦略」という考え方は、非常に重要だと思うのですが、まずもってこの「組織戦略」という言葉を流行らせる必要があると思っています。

一つは「戦略」という言葉が重要だということですね。

この「戦略」ということについては、後述したいと思います。

もう一つは「人事」ではなく、「組織」を考えなくてはならないということです。

人事部門は、「人事」という名が示すように、どうしても個別人事や労務関係に意識が向き、「組織」というもののあり方への意識が薄くなる傾向にあります。

 

戦略の定義として、色々な言葉遣いがされています。

経営の神様と謳われたドラッカーは次のように言いました。

「リスクを伴う企業家的な意思決定を体系的に行い、その実行に必要な活動を体系的に組織し、それらの活動の成果を体系的にフィードバックするという連続したプロセスである」

見事に表現されていると思うのですが、私はもっと削ぎ落としてもよいと思っています。

マネジメント研修などの場で、「経営」と「戦略」の日本一削ぎ落とした定義として、次のように言っています。

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経営:目的を実現するために、意思を持って計画し実行することである。

戦略:計画と実行を勝てるものにすることである。

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この、経営の方の「意思を持って」と、戦略の方の「勝てるものにする」という部分が実に重要なポイントだと思うのです。

意思を持っていないと、状況によって大きくブレていきますし、うまくいかなかった時にやり直し学んでいくことができません。

また、競争環境にない事業でない以上、ライバルに勝てる戦略でなければ意味がありません。

さて、この「意思を持って」ということと「勝てるものにする」という二つのことが、人事部門がとても苦手とするところなんですね。

その理由は、伝統的に経営者が人事部門を戦略部門ととらえず、所謂「管理部門」あるいは、「スタッフ部門」、極端に言うと「処理部門(オペレーション)」と位置付けて来たことが大きいと思います。

そうした位置付けで、意思を持たず「受け身」で言われたことを、勝てるものにしよう、ではなく「キチンとしたもの」にしようという意識で、仕事をすることになります。

そうしているとどうなるかと言いますと、せっかく、「意思を持って」「勝てる」ものとして作られた、優れた「事業戦略」が、意思を持たない、ー見キチンとしているだけの、勝てるものになっていない人事の仕事に足を引っ張られることになるのです。

第一回「組織戦略という発想を持つ」で書いたように、事業戦略を実践するために、企業に人と組織が存在するのであり、それ以外の目的はありません。

人事部門のやる仕事は、ことごとく事業戦略の実践に結びついていなくてはなりません。

と、ここまで書いたことは、これまでのブログにも再三書いてきたことの繰り返しで、ややくどい感じになっていると思います。

今日三つ目の人事部門に必要なセンスとして取り上げたいのは、この企業活動の根幹である事業戦略を理解するということです。

人と組織が存在する目的である「事業戦略」そのものが理解できていない人事部門の方が実に多いんですね。

これは早急になんとかしなければならないと私は思います。

理解できていないと、次のような問題が考えられます。

・理解できていなければ、それを実践するための組織戦略を考えることが、そもそも無理である。

・理解できていなければ、人事部門の日常業務そのものがどんどん現場感覚から離れたものになっていく危険性がある。

・理解できていなければ、現場の皆さんとの会話が通じなかったり、色々な施策を理解してもらって実行していく際に、共感が生まれず、現場と本社の溝が大きくなってしまう。

 

理解できていない理由もいくつか考えられますね。

・そもそも、自分達は人事の専門家であり、事業のことは現場の人の役割であって理解する必要がないと思っている。

・経営者も、人事部門が事業戦略を理解する必要性を認識しておらず、要望をしていない。

・経営企画室などの策定部門が、「誰でも理解できる」レベルの分かりやすい資料としてまとめることをサボっている。

特に、三つ目の事業戦略を社員が分かりやすい状態にするということは、人事部門のためということは別としても非常に重要です。

いくつかの事業部門ごとの戦略は比較的理解しやすいのですが、事業部門をまたいだ戦略の全体像を理解しやすく表現することができていないようです。

事業ポートフォリオの考え方などは人事部門にとって非常に重要ですね。

どの事業に力を入れ、どの事業は現状維持で、どの以上は縮小方針なのか。

人員計画に直接的に影響を与える情報であるはずです。

既存事業から新規事業に人員をどうシフトしていくのかを考えることも実に難しい問題で、人事部門が蚊帳の外というわけにはいきません。

新規事業に異動させていく社員にはそれにふさわしい素養が必要であり、場合によっては、計画的に育成していく観点も求められることになります。

事業戦略を理解し組織戦略との連携を深めるための動きを一時的ではなく、日常的に、意識的にとっていく必要がありますね。

・可能な限り、人事部門の責任者を、事業運営経験者にする。

・経営企画室などの、事業戦略を掌っている部門と定期的な情報交換の場を設けるなど、連携を深める。

・業績動向や、事業戦略の情報共有の会議などの情報を常に確認し、人事部門内の全メンバーで共有するように習慣化する。

人事部門が事業戦略を理解する取り組みを、今すぐにでも始めて、絵に描いた餅でない組識戦略を描き、実行できる人事部門に進化したいものだと思います。

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今野 誠一Seiichi Imano
企業経営にあたりつつ、自らも第一線のコンサルタントとして、組織変革コンサルティング、経営幹部教育プログラムや管理職研修のファシリテーション、企業理念構築や経営ビジョン構築ワークショップのファシリテーションなどを担当している。